『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』癒される本です

『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』(ファン・ボルム 著/牧野 美加 訳)。
韓国の長編小説で、2024年本屋大賞翻訳小説部門第1位。
小説の舞台は、会社を辞めた30代の女性ヨンジュが立ち上げた「ヒュナム洞書店」。
就活に失敗したアルバイトのバリスタ・ミンジュン、コーヒーの焙煎業者のジミ、
無気力な高校生ミンチョルとその母、契約社員としての立場に理不尽さを覚えて
退職したジョンソなど、書店に集まる人々が心地よい距離感で交わりながら、
それぞれの悩みを少し軽くし、生きる活力を取り戻していく。
韓国の就職事情とか社会背景が異なる部分もあるけれど、
悩みや葛藤は共感できる部分が多いし、書店を中心にして
こんな居心地の良さそうな人間関係が築けるなんて、とても素敵。
相手に関心は持つけれど干渉しすぎず、助けが必要であればそっと手を差し伸べる、
そんな空気感はとても温かくて読んでいて癒されました。
本の中で、
”小説は、自分だけの感情から抜け出して他人の感情に寄り添えるところが良い(略)・・・
他人の感情をたっぷり受け止めたあと本を閉じれば、この世の全ての人を理解できそうな
気分になる”
”本を読んでみたら、わかることがある。著者たちもみんな井戸に落ちたことの
ある人なんだってこと”
という表現が印象に残って。
小説を読んでいると、自分が経験したことのない人生を生き、
感じたことのない感情を経験して自分の世界の外に出られること。
行き場のない感情を抱えている時も、”自分だけじゃないんだ”と思えたり、
本の中に何らかの答えが見つかることがあるのも読書の醍醐味だと
再確認した気がしました。
後半、書店で是枝裕和監督の映画を上映するくだりでは、ミンジュンが
”今のこの人生も自分にとっては初めてなのだ”と
思う場面があって、これにもハッとさせられました。
初めての人生。
初めての日を毎日生きているけれど、そう認識することはほとんどありません。
初めてだったら失敗するのも当たり前だし、悩むのも仕方のないことだから、
もっと気楽に生きて良いんだと思わせてくれるひとことでした。
全編通して温泉みたいにぬくぬくと気持ち良く、”もっと肩の力を抜いていいんだよ”、と
言われているような小説でした。
版元集英社の公式サイトがあります。