『エーゲ海に強がりな月が』(楊逸 ヤン・イー 著)

楊逸(ヤン・イー) は、中国ハルビン市出身の日本の小説家で、
日本語を母語としない作家として初の芥川賞を受賞しています。
この小説は30代前半の女性で夫が出張で不在がちな「私」が、
美人の友人・桂子の奔放な恋愛事情を通じて、自身の夫婦関係や恋愛観を
見つめ直す姿を描いています。
桂子は父親ほど年の離れた男性と恋に落ち、その関係性や駆け引きが物語の
中心となっています。
また、桂子の恋愛は「私」の生活にも影響を与え、物語は進展していきます。
読み始めてしばらくして、「私」が日本人ではないことに気づいて、
自分で少しびっくりしました。
日本語で会話しているし、主人公の2人は日本人どうしの友人だと
無意識に思い込んでいて、心の隅にある先入観に気づいた瞬間でした。
恋愛経験が豊富ではなく、受け身の姿勢が目立つ「私」と、
積極的に恋愛を仕掛けていく桂子。
結婚している「私」と未婚の桂子。
対照的な2人で、「私」は桂子を少し羨ましく思い、妬むような、
少し意地悪な言葉を投げかける場面もあります。
桂子は結婚がゴールだとは思っていないような所もあり、結婚して
夫と静かに愛を育んでいる「私」とは、恋愛に対する熱量の違いを
感じます。
さらに、男性の心を自分に向かせることが喜びで、その目的が達成できると
その恋愛への興味がなくなっていき、愛を受け取ることに
慣れていないというか、興味が向かないようにも見えました。
物語は2人の恋愛にまつわるエピソードを中心に淡々と進んでいき、
20代のエネルギーに満ちた頃を過ぎた、30代の恋愛はこういうものだったかなあ、と
少し懐かしい感じもしました。